護衛その一


いつものように酒場の掲示板に目を通す。

「霧生都市までの護衛募集中」

あとは退治に探索か・・・手頃な依頼はこれしかないな。

「おやじ、この依頼俺が引き受ける。」

「これか?年寄りの護衛だな。ほら、依頼書だ。ちゃんと依頼達成のサインをもらってくるんだぞ。」

「わかってるよ。素人じゃあるまいし。こう見えても依頼達成率100%なんだぜ。」

酒場の主人は一人の老人を連れてきた。

老人はしばらくの間俺に見とれていた。なにか妄想にふけっているようにも見える。

大丈夫か?この爺さん・・・

そして思いだしたようにいった。

「おお、ずいぶん若いので驚いたのじゃ。実は霧生都市までの帰り道を忘れてしまっての。

昔は目をつぶってでもいけたのに、年には勝てんのかの。」

こうして俺たちは霧生都市めざし旅をすることとなった。

護衛なんて依頼は気楽なもんだ。

ネズミやらオークやらから逃げ回ってりゃ依頼がもらえるんだからな。

それに、あまり認めたくはないが護衛対象の爺さんのほうが強そうだぜ。



霧生都市までの最後の町に到達したとき、例の爺さんは言った。

「ところでおぬし、依頼達成率100%を自慢しておるようじゃが、依頼を複数受けたりはせぬのか?

護衛中にも宅配、買い物などを組み合わせたら効率的じゃろうて。」

「ああ、すぐに戻らないといけない用事があるんでね。暇つぶしってわけさ。

それにしても爺さんやけに詳しいな。昔は名のある冒険者だったとか?」

「まあな、昔は色々なことがあった。だが過ぎた事じゃ。

おぬし、聞き飽きた言葉かもしれぬが、悔いの残るような人生だけは歩むなよ・・・」

そういうと老人は何かに祈るような目つきをした。

過去に何かあったのだろうな。だが、俺は老人の罪の告白を聞いてやるほどの親切心は持ち合わせていなかった。

「さて、急ぎの旅ではない。少し休ませてはもらえんかの。長旅は老体にはこたえるわい。」

老人はさっさと宿に向かってしまったので俺は酒場で時間をつぶすことにした。



あまり賑わってねえな。

カードを巻き上げる相手もいやしねぇ。

仕方なしに掲示板に目を通す。

「ダイノサウルス討伐出来る冒険者募集 −住民一同−」

依頼を複数うけたり・・・か。

暇つぶしにゃもってこいかもな。

ダイノサウルスとやらを拝んでみるか。勝てなきゃ逃げてくりゃいいさ。

こうして俺はダンジョンに潜ることにした。



なんだここは?

床のあちこちから炎が吹き出している。

足場も悪く、先へ進むのも困難だった。

めんどくせぇな。こうなったら突っ込んでやる。

俺はやけど覚悟で炎の中へ突っ込んだ。

くそっかなりのダメージを受けちまった・・・。

いつもならすぐに回復するところだが、その時俺の目に宝箱が飛び込んできた。

回復はあのお宝をいただいてからにしよう。

鍵を持っているし、罠の心配はない。

そう油断したのが命取りだった。

宝の方へ数歩踏み出した時、突然床から強烈な電撃が走った。

しまった!

死ぬのか・・・こんな所で・・・

その時、誰かが駆け寄ってきた。

「大丈夫か!?死ぬんじゃないぞ」

あの老人の声だった。

暗転していく視界に、心配そうにのぞき込む老人の姿が見えた。

その時、突然過去の記憶がよみがえってきた。

この光景・・・どこかで・・・

と・・・父さん!?

意識が薄れてゆく・・・



教会らしきベッドの上で目が覚めた。

ここはどこだ?

「気が付かれましたか?ここは霧生都市の寺院ですよ。」

霧生都市・・・護衛の目的地だ。

そうだ。俺は護衛の最中だった!

依頼の契約書を見ると、任務達成のサインが記してあった。

「貴方を助けた人物ですが、名乗らずにどこかへ行ってしまいました。」

父さん・・・か。言ってやりたい事は山ほどあったのによ。

いけねぇ!今何月何日だ!?

まだ間に合う。依頼達成率100%が泣くぜ!

俺は神官の制止を振り切って町を飛び出した。

そうさ、またいつか会える。

冒険していれば、きっとな・・・。



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