救出その一


「やっと三階か・・・なんて複雑なダンジョンなんだ。

これじゃお宝を見つける前に寿命が来ちまうぜ。」



俺は悪態をつきながら近くのドアを蹴破って回った。

3つ目のドアを蹴飛ばした時、足に激痛が走った。



「痛えっ!ご丁寧に鍵なんぞかけやがって畜生!」

痛くないようにもう一度ドアを蹴飛ばした後、少し冷静に考えてみた。

「これだけ頑丈に鍵がかけてあるって事は、とうとうこの奥にお宝が!?」

さっきまでの怒りも吹き飛んで早速鍵開け作業に入った。

「こんな鍵ものの五分も在れば・・・あれ・・・くそっ・・・畜生・・・!!!」



小一時間ほどねばって遂に鍵を開けた。

意気込んで扉を開けると、そこには屈強なモンスターに守られた宝箱が・・・見あたらなかった。

が、そのかわりに冒険者らしき一人の女が倒れていた。

囚われの美少女ってか?誰かに誘拐されたにしては犯人の姿が見えないが・・・

「おい、どうした!?」

「た、たすけて。罠にはまって動けなくなっちゃったのよ」

連れて行くと足手まといになりそうだが・・・まあ礼の一つぐらいは出るだろう

俺は足に絡まっている罠を外してやった。

「ありがとう、助かったわ。私は千歳、あなたは?」

「バザルハーク。」

「変わった名前ね。まあいいわ、私ここのダンジョンにすごいお宝があるって聞いたから来たんだけど
ほんとに面倒な構造してるわよね、もう三日もダンジョンに潜りっぱなしよ。
出てくるモンスターは手強いし。松明は切れかかるし、罠にははまるしもうさんざんよ。
こんなダンジョンいったい誰が作ったのかしら?」

しらねえよ。

「そうそう、私お宝のある部屋は見つけたのよ、
だけど守っているモンスターが強すぎてまるで歯が立たなかったの。
いったん退却して休息しようとしたんだけど、うっかり罠を踏んじゃってこのザマよ。
そうだ!あなたあのモンスターやっつけてよ。あなたもお宝見たいんでしょ。どう?」

・・・よくしゃべる奴だな。



「案内してあげるわ。」

狭い通路を進み、突き当たりまで来ると、正面にいわくありげな扉が出現した。

「ここよ。がんばって。それっ!」

「おわっ!?」

俺は背中を押されて扉の中に突っ込んでいった。

暗闇の中で巨大な怪物と目があった。レッドドラゴンだ。

「そいつ麻痺を使うわ、気を付けて。さっきそれでやられたのよ。
他のドラゴンにはそんな能力無いのにどうしてこいつだけ麻痺能力あるのかしら?」

「うるせぇな。黙って見てろ。」

俺は敵が動く前に素早く切り込んだ。

「オラッ!」

一撃、二撃、三撃。

ドラゴンの爪を盾で受け流し、再び三撃。

その攻防が数回繰り返された。



そろそろだな。

カード化させてもらうぜ。

「くらえ!ファルコ・・・ん?」

その時、背後から何かがレッドドラゴンめがけて飛んでいった。

それはドラゴンの心臓に突き刺さり、そのまま息絶えてしまった。

後ろを振り返ると、弓を構えたままの千歳の姿があった。

「何やってんだよおまえ!せっかくカード化しようと思ったのに!」

「あらそうだったの。てっきり息切れしたのかと思ったわ。
そいつ麻痺使うのよ。本当に危ないんだから。」



まったく。うっかり助けるんじゃなかったぜ。

さっさとお宝をいただいてお別れだ。

俺は宝箱の爆発もものともせず鍵をこじ開けた。

あった。ベドウィンサイフ!

へへ、これでおれも名刀使いってわけだ。



さて、こんなところにはもう用はない。脱出だ。

俺は着ていた鎧を脱ぎ始めた。

「な・何してんの・・・?」

「何って?決まってんだろうが。」

バニッシュ!

「おつむが足りなかったのね・・・」



ようやく洞窟を脱出できた。三日ぶりの太陽だ。

やはり日の光は落ち着くな。

「さて、ここでお別れだ。じゃあな。」

「ちょっと待ってよ、貰うもの貰ってないわ。そのお宝。」

「なんだと?何言ってんだよ。お前救出対象だろ?」

「何よ救出対象って。私は別に誘拐されたわけじゃないわ。
仲間として報酬を分配するのは当然でしょ。
それとも何?救出の依頼書でも持ってるの?」

くそっ、だまされた。人助けなんぞ二度とやるかっ!

「そこまで言うのなら椎王で勝負だ!」

「望むところよ!」



「俺の先攻だな。攻撃カードにウーズをセット」

「私はターバンをセット」

「支援カード、ウーズ!」

「このままじゃドローよ。トマホーク!」

「ふ、こんなカードは持ってないだろう。リバース!」

「何それ!ずるい・・トマホーク・・・」

「アサシンで俺の勝ちだ!」

「・・・」



「これで俺が正当な所有者というわけだ。じゃあな、あばよ。」

「バザルハーク!ちょっと待ってよ。」

「なんだよ、まだあるのか?」

「その・・・お宝なんてどうでもいいのよ・・・」

「じゃあなんだよ」

「もう少し、付いていってもいいかしら?」

「え?」

「勘違いしないでよ。そういうんじゃないんだから。
あなたこれから何か大きな事しに行くんでしょ。そういう顔してるもの。
絶対足手まといにはならないから連れてってよ。」

「・・・悪いが俺は誰とも組むつもりはない。
今まで一人でやってきたし、これからもそうだ。」

「カッコつけちゃって。そう、そこまで言うならいいわ。後悔しても知らないわよ。じゃあね。」

千歳はそういって去りかけた。

「待ちな。餞別だ、受け取れ。」

俺はベドウィンサイフを投げ渡した。

「私にくれるの?じゃあ早速売り払ってお金にするわ。」

「勝手にしろ。」



そして俺は千歳と別れた。

正直言って、ちょっともったいないと思う気持ちはあったさ。

だがこれでいいんだ。

俺にはまだ自分の力でやらなければならない事がある。

そしていつの日か、見せかけじゃない本当の強さを手に入れることが出来たら・・・。



その時こそは手に入れてやるぞ。

本当のお宝をな。



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