月狂奇譚
第一話・前編
『ゲートが怪しく光った。私は剣を握りしめた。次の瞬間、神殿に嵐が吹き荒れた。轟音に混り笑い声が聞こえる。「くっくっく…。」押し殺したような声だった。目を凝らしてみる。そこには一つの人影があった。真紅のローブ、異国の紋様。間違いない、奴だ・・・。』
第一話・後編
『男にしては華奢な体だ。フードに隠れ、表情はわからない。奴は腕を僅かに上げた。エアダガーだ…今殺らなければ…だが体が動かない。抵抗は無駄だった。初めて死を覚悟した。目を閉じる。しばしの沈黙。目を開けると、そこには風に舞う木の葉が一枚あるのみだった。』
第二話・後編
『目の前に奴が居る。なにもかもあの日と同じ。ゆっくりと手を挙げる紅フードの男。すかさず切り込む。一撃でいい。当たれ!幾重ものエアダガーは自ら避けるように身をかすめてゆく。魔力の実…それが秘策だった。勝てる!振り抜いた剣は赤フードの首をとらえた・・・。』
第二話・後編
『金属音がした。見るとそこに首はなく、折れた剣の先端が落ちていた。ばかな!?「くっくっく…見事な一撃だ、気に入った。我が世界にて会おう。歓迎するぞ。」そういうと、木の葉一枚を残し、風に消えていった。そして私は意識が薄れていくのを感じた・・・。』
第三話・後編
『部屋の隅に折り重なる死体。胃液が上ってくる。「耐えられなかった実験体だよ」背後をとられていた。「力が欲しいのだろう。我が組織に入ればこの力は思いのままだ。」私は拒絶しようとした。「くっくっく…。無理をするな、ここへ来たのがなによりの証拠・・・」』
第三話・後編
『逃げるようにここまで来た。恐ろしい…魔導の力…それは即ち宇宙の記憶「アカシック・レコード」…性別すらわからぬ人物の言葉を信じることが出来ようか…私は奴のことを何一つ知らない…だが…奴は私の全てを知っていた。あの力が欲しい…その思いが私の全てだった』
第四話・後編
『私は力を得た…赤ローブは言った「究極の力。それは道具にすぎぬ。真の目的は新たなる世界の構築。完全なる楽園の創造。」私はそれを信じた。その日から私の戦いの日々は再開した。なんの事はない。すべては以前と同じ。ただ、相手は同じ力を持つ者というだけ…』
第四話・後編
『ある日、私は赤ローブは言った。「奴は最強だ。究極の力のせいではない。奴の力は奴の狂気そのものだ。」狂気…自らをビーナスと名乗る人物。女神の名を持つ破壊の魔王。私は言った。「必ず倒す」と…そして同時に感じていた。これが最後の戦いになるだろう事を。』
第五話・後編
『奴の武器は巨大な斧。その様は魔王より死神の名がふさわしい。奴は無言のまま斬りつけてきた。が、その武器はむなしく空を切るばかりだった。「忘れたか?ここは私の世界だ。すべての法は私の手の中にある。永遠の闇に消え去るがいい。」それはあっけない勝利だった。』
第五話・後編
『奴は力を失いもはや無害な存在になった。だが人々は彼を許さなかった。彼は行く先々で暴力と罵声を浴び、そして世界を追放された。私は見た。つかの間、彼の姿が自分の未来と重なるのを。平穏を望む人にすれば、彼も私もなんの変わりもない。その目的が何であろうと』
第六話・後編
『反乱は起きた。人々は気づいたのだ。完全なる楽園…それが幻だと言うことに。目標は失われ、組織は揺らいだ。強大すぎる力をもてあまし、遂には内から崩壊した。それ以来、赤ローブの人物は姿を消した。人々は言った。すべては終わった。すべては幻だったと。』
第六話・後編
『だが私は思う。完全なる楽園…それは確かに存在した。赤ローブの人物と共に存在していた。楽園は彼そのものだった。そして私は信じている。いつの日か彼は戻ってくると。なぜなら私は未だに見ることがある。風に舞う木の葉に、束の間彼の影が映るのを…。』
月狂奇譚−終−
戻る